事件番号:JP2013-0002

                 裁 定

  申立人:
  (氏名)株式会社センチュリー21・ジャパン
  (住所)東京都港区北青山2丁目12番16号北青山吉川ビル7階
  代理人:弁護士 岩井 泉
      弁護士 關 健一

  登録者:
  (名称)センチュリー住宅販売株式会社
  (住所)東京都港区芝4丁目10番5号

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JP ドメイン名紛争処理方針(以下「方針」
という。)、JP ドメイン名紛争処理方針のための手続規則(以下「手続」という。)及びJP
ドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・答弁書・提
出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定する。

1 裁定主文
  ドメイン名「CENTURY21.CO.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「CENTURY21.CO.JP」である。
3 手続の経緯
  別紙のとおりである。

4 当事者の主張
 a 申立人
  (1) 申立人は、不動産業者向けフランチャイズチェーンの事業本部であり、加盟店
   に対する営業支援等を主な業務とする会社である。
   当該フランチャイズ事業は米国に世界本部を有し、申立人は、日本でのフラン
   チャイズ本部である。米国本部は、日本国内において以下の「センチュリー21」
   に関する登録商標を有し(甲1の1~5)、申立人は、米国本部よりこれらの商標
   の独占的使用許諾を得て、日本国内において事業を展開している。
    申立人は、「CENTURY21.JP」のJPドメインを取得しており(甲2)、当該ドメ
   インを利用したウエブサイトを運営し、加盟店の取り扱う不動産情報等を提供し、
   不動産仲介業を支援している(甲3)。
  (2) 申立人は、1983年より、日本国内においてフランチャイズ事業を展開し、
   同年7月に、首都圏を中心に12の加盟店が事業を開始した。その後、関西圏、
   中部圏、九州圏にもフランチャイズ加盟店を展開し、現在、加盟店総数は800
   店舗を超えている(甲4)。
    また、申立人は、1984年より現在に至るまで、申立人及びその加盟店につ
   いてのテレビコマーシャルも放映しており、「センチュリー21」「Century21」の
   名称は、申立人及び申立人との間でフランチャイズ契約を締結した加盟店の、不
   動産取引行を表示するものとして広く認識されている。
  (3) 登録者は、「CENTURY21.CO.JP」(以下「本件ドメイン名」という。)のJPドメ
   インを登録している(甲5)。また、登録者は、本件ドメイン名を利用したホーム
   ページにおいて不動産情報を掲載し(甲6)、「センチュリー住宅販売」という商
   号で不動産仲介事業を行っていた。
  (4) 本件ドメイン名の「CO.JP」部分は、日本を意味するJPドメインのうち、企業
   のためのドメイン名であり、日本での商業ドメインを意味するものに過ぎないか
   ら、類否判断における対象とはならない。
    当該部分を除いた「CENTURY21」部分は、まさに申立人の使用する表示そのもの
   である。
    前記のように、登録者が「センチュリー住宅販売」という商号で不動産仲介事
   業を行っていたことも考え併せると、本件ドメイン名に接した需要者において、
   本件ドメイン名を、申立人及びその加盟店がその不動産業のために使用するドメ
   イン名であると誤認する恐れがあることは明らかである。
  (5) 登録者は、申立人とフランチャイズ契約(以下「本件フランチャイズ契約」と
   いう。)を締結していた加盟店であったが(甲7の1)、遅くとも平成23年12
   月27日の経過をもって、申立人と登録者との間の本件フランチャイズ契約は終
   了している(甲8)。上記に至る背景事情は、以下のとおりである。
    昭和62年7月、申立人は、申立外横浜不動産株式会社(当時の商号は「株式
   会社マンションセンター」)と、フランチャイズ契約(以下「横浜不動産フランチ
   ャイズ契約」という。)を締結し、申立外横浜不動産は、加盟店として不動産仲介
   業を行っていた(甲9、10)。
    しかし、申立外横浜不動産株式会社は、横浜不動産フランチャイズ契約におい
   て加盟店が遵守すべきとされていた「センチュリー21基準書」(甲7の2)の1
   -10-1に記載されている「century21」のドメインの独占禁止規定に違反して、
   本件ドメイン名を登録して営業に使用するようになった。このため、遅くとも平
   成10年頃から、申立人は申立外横浜不動産に対し、本件ドメイン名の使用を中
   止するよう繰り返し申し入れてきた(甲11)。そのような中、申立外横浜不動産
   は、フランチャイズフィーの支払いも滞るようになり、協議を行ったものの支払
   いがされなかったため、申立人は、解除予告通知を送付し、遅くとも、平成23
   年11月10日の経過をもって、横浜不動産フランチャイズ契約は解除された。
    他方、申立人は、平成23年5月12日、当時申立外横浜不動産(当時の商号
   は「オンライン不動産」)の従業員として勤務している足立氏(現登録者代表者)
   より、同社を退職して独立し、申立人に加盟したい旨の打診があったことから、
   出身元の加盟店の経営者(当時の申立外横浜不動産の代表者宮澤氏)から独立等
   に関する承諾書を取り付ける必要があることを説明した。同月30日、足立氏は、
   「オンライン不動産販売株式会社」という法人名義での加盟申請書を持参し、申
   立人本店事務所を訪れた。申立人は、加盟者である申立外横浜不動産(当時の商
   号は「オンライン不動産」)と、登録者(当時の商号は「オンライン不動産販売」)
   の商号が酷似していたために足立氏に問いただしたところ、両社には全く独立し
   た別会社であると説明した。同年6月5日、承諾書(甲14)が、申立人に送付
   されてきたため、検討の末、同月21日、登録者との間で本件フランチャイズ契
   約を締結するに至った。
    ところが、①本件フランチャイズ契約の締結日と同日に、本件ドメイン名が申
   立外横浜不動産から登録者に移転登録されていたこと(甲5)、②登録者が本件ド
   メイン名を自己に移転した後も、申立外横浜不動産(当時のオンライン不動産)
   のウェブページとして利用していたこと(甲15、16)、③申立外横浜不動産と
   申立人とのフランチャイズ契約が終了すると、従業員等が全く同じ同一のウェブ
   ページを、登録者が自己のウェブページとして利用していたこと(甲16、17)、
   ④申立人が調査モニター客を登録者(当時の商号はオンライン不動産販売)に派
   遣したところ(甲19)、登録者の店舗があるはずの渋谷ではなく、港区芝の申立
   外横浜不動産(当時の商号はオンライン不動産)店舗に案内されたこと、⑤申立
   外横浜不動産(当時の商号はオンライン不動産)の社内メールで、申立外横浜不
   動産の売上金等は、登録者(当時の商号はオンライン不動産販売)に流入されて
   いたこと(甲20)から、登録者の営業活動が、店舗所在地以外での未承諾の事
   業運営(本件フランチャイズ契約第5条第1項違反)等であり、本件フランチャ
   イズ契約第12条第2項(3)違反に当たることから、申立人は解除予告通知書
   を送付し、遅くとも、平成23年12月27日の経過をもって本件フランチャイ
   ズ契約は終了した。
    以上から、申立人と登録者との間の本件フランチャイズ契約は終了している。
   本件フランチャイズ契約中であっても、登録者は本件ドメイン名の登録を禁止さ
   れていたものであることに加え、本件フランチャイズ契約が終了した以上、登録
   者は申立人を表示する「センチュリー21」に関する一切のマークの使用を中止
   しなければならないのであるから、登録者に本件ドメイン名に関する権利は存在
   しない。また、申立外横浜不動産と登録者との営業状況や、本件ドメイン名の移
   転経緯等を鑑みれば、登録者は、経営不振となった申立外横浜不動産の受け皿と
   して設立された会社であって、本件ドメイン名を申立外横浜不動産より譲り受け
   る正当な利益などなく、ましてや、本件フランチャイズ契約が終了した現在にお
   いて、本件ドメイン名を登録している正当な利益など存在しない。
  (6) 登録者は、上記のような経緯を経て、平成23年12月末に本件フランチャイ
   ズ契約が終了した後、平成24年1月25日に、商号をオンライン不動産販売か
   ら、現在の「センチュリー住宅販売株式会社」に変更した(甲13)。その上で、
   本件ドメイン名を使用したウェブページを利用し、不動産取引事業を行っていた
   (甲6)。
    商号を申立人と関係するかのような「センチュリー住宅販売株式会社」に変更
   し、さらに、本件ドメイン名を利用する所為は、登録者があたかも申立人の加盟
   店であるかのように装うものに他ならず、登録者が、需要者に対し、申立人のウ
   エブサイトと誤認混合させ、顧客を誘引していたことは明らかである。したがっ
   て、不正の目的で使用されていたことも明らかである。
  (7) よって、申立人は、本件ドメイン名の登録を申立人に移転せよとの裁定を求め
   る。
 b 登録者の答弁
   登録者によって答弁書は提出されなかった。

5 争点及び事実認定
 (1) 規則第15条aは、パネルが紛争を裁定する際に使用することになっている原則
  について、パネルに対し、「パネルは、提出された陳述・文書および審問の結果に基
  づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法規の規定・原則、ならびに条理
  に従って、裁定を下さなければならない。」と指示する。
   方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを指図
  している。
  ① 登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表示
   と同一又は混同を引き起こすほど類似していること
  ② 登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと
  ③ 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

 (2) そこで、当パネルは、上記①ないし③について、検討していく。

  ア 「登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標その他表
   示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること」について
    申立人は、登録商標「Century21」(以下「本件商標」という。)について正当な
   権利及び利益を有する(甲1の1~5)。これらの登録商標のうち、甲1の1~3
   は文字と図形の組み合わせであるが、その要部は標章の大部分を占める
   「Century21」である。また、甲1の4は、「CENTURY21」の標準文字そのもので登
   録されている。
    次に、本件ドメイン名と本件商標の類似性を検討すると、本件ドメイン名の
   「CENTURY21.CO.JP」のうち、「CO.JP」の部分は、使用主体が属する国及び組織を
   表示するものであるに過ぎない。
    以上から、本件ドメイン名において、主たる識別力を有するのは、「CENTURY21」
   の部分にあると認められるから、本件ドメイン名の要部は「CENTURY21」の部分で
   ある。
    そこで、本件ドメイン名の要部「CENTURY21」と、本件商標の要部(又はそのも
   の)である「Century21」、「CENTURY21」とを比較すると、両者は、称呼・外観・
   観念において同一又は混同を引き起こすほど類似していると認めることができる。
    よって、本件ドメイン名は、本件商標と誤認混同を生ずるほど類似すると認め
   られる。

  イ 「登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していないこと」
   について
    申立人は、既に本ドメインに関し自らの権利又は正当な利益を有する商標を有
   していることを立証していること、登録者の権利・利益は登録者が最も立証する
   ことが容易であることから、本要件については、登録者がかかる権利又は利益を
   立証しなければならない。
    ところが、登録者は答弁書を提出せずこれを立証しない。また、一件記録を検
   討しても、登録者に係る権利または利益があることを推認させる事情は見当たら
   ない。処理方針第4条cの各号に該当する事情も見当たらない。
    よって、登録者が権利または正当な利益を有していないと認めることができる。

  ウ 「登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること」につい
   て
    申立外横浜不動産が本件ドメイン名を取得した正確な時期は不明であるが、申
   立人が申立外横浜不動産に対して平成10年頃から本件ドメイン名の使用中止を
   求めて申し入れてきた事実から(甲11)、申立外横浜不動産が本件ドメイン名を
   取得した時期は同時期の直前頃だと考えられる。当時、申立人と申立外横浜不動
   産の間には、横浜不動産フランチャイズ契約が締結されていたが、
   「century21.co.jp」のドメインを独占することは禁止されていたものである(甲
   7の2、1-10-1)。
    ここで、申立人の本件商標は、平成10年頃には国内的に周知であったといえ
   る(甲4)。
    そして、本件ドメイン名は、平成23年6月21日に登録者に移転登録された
   が、申立外横浜不動産と登録者とは実質的に同一の会社であることが分かってい
   る(甲15~20)。
    また、登録者は、平成23年12月27日に本件フランチャイズ契約が終了す
   るや否や、平成24年1月25日、商号を「オンライン不動産販売」から申立人
   と関連性があると誤認させる「センチュリー住宅販売」に変更している(甲13)。
    また、本件において、登録者は答弁書を提出せず、登録又は取得時に不正目的
   がなかったことの主張立証をなしておらず、一件記録を検討しても、登録者に登
   録又は取得時に不正目的がなかったことを推認させる事情は見当たらない。

 (3) 以上から、実質的には、登録者は、本件商標がすでに周知であった平成10年頃
  に、フランチャイズ契約で禁止されていた本件ドメイン名を取得し、本件フランチ
  ャイズ契約の終了直後から申立人と関連性があると誤認させる商号で不動産事業取
  引を行っていたのであって、需要者に対して申立人の事業と何らかの関連性がある
  と誤認させて顧客を誘引していたことは明らかである。
   よって、本件ドメイン名は、不正の目的で登録され、使用されていたといえる。

6 結論
  以上に照らして、当パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
 「CENTURY21.CO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者がドメイ
 ン名について権利又は正当な利益を有しておらず、登録者のドメイン名が不正の目的で
 登録され、使用されているものと裁定する。
  よって、方針第4条iに従って、ドメイン名「CENTURY21.CO.JP」の登録を申立人に
 移転するものとし、主文のとおり裁定する。

   2013年5月21日


       日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              パネリスト  山  上  和 則




                                    別紙

                手続の経緯

(1) 申立書受領日
  2013年3月12日(電子メール)及び3月15日(書面)

(2) 手数料受領日
  2013年3月12日(申立手数料の受領確認)

(3) ドメイン名及び登録者の確認
  2013年3月14日 JPRS へ照会
  2013年3月14日 JPRS から登録情報の回答
 【回答内容】 ①申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、②JPRS
       に登録されている登録者の電子メールアドレス(以下「登録アドレス」)
       及び住所(以下「登録住所」)等
(4) 適式性
  日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2013年3月18日、
 証拠の一覧表と説明書、及び代表者の資格を証明する公的証明書類の提出が必要と判
 断し、その旨を申立人に通知し、3月22日に各書類を受領した。センターは,同月
 22日,申立書が処理方針と規則に照らし適合していることを確認した。

(5) 登録者への通知日及び内容
  ① 申立書送付日: 2013年3月25日(電子メール及び郵送)
  ② 送  付  物: 申立書及び証拠等一式
  ③ 答弁書提出期限:2013年4月22日

(6) 手続開始日
  2013年3月25日(申立人及び登録者には電子メール及び郵送で、JPRS 及び
 JPNIC には電子メールで、それぞれ手続開始日を通知)

(7) 答弁書の提出の有無及び提出日
  センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2013年4月23
 日、「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不提出通知書を、電子メール
 と郵送にて申立人及び登録者に送付した。

(8) 紛争処理パネルの構成
  ① パネリストの人数:申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選
            択。
  ② パネリストの指名日:2013年4月30日
  ③ パネリストの指名 :弁護士 山上 和則
  ④ 中立宣言書の受領日:2013年5月7日

(9) パネリストの指名及び裁定予定日の通知
  ① 通知日:2013年4月30日(JPNIC 及びJPRS へ電子メールで通知、申立人及
       び登録者へ電子メール及び郵送で通知)
  ② 裁定予定日:2013年5月22日

(10) パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡しの日
   2013年4月30日(電子メール及び郵送)

(11) パネルによる審理・裁定
   2013年5月21日 審理終了、裁定。